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公共iDCの役割と課題

ASPIC 常務理事 岩下安男
(株)大阪エクセレントiDC 代表取締役社長
1.はじめに
e-Japan戦略の一環として推進されている電子自治体プロジェクトを効率的に実現するために、総務省は、各地域で共同センターを設置し、自治体IT関連業務をアウトソーシングするよう提案している。また、経済産業省から、生活圏や経済圏が同じコミュニティのためのコミュニティ・データセンターが提案された。
本稿では、公共iDCとは、電子自治体システム(電子申請、電子調達など)や、地域情報化拠点を収容するための器であるとする。
大阪府が事業主体となり、(株)大阪エクセレントiDCが、指定管理者として運営管理を委任されている「大阪府立インターネットデータセンター(愛称:eおおさかiDC)」は、「都道府県としては全国で初めての公共iDC」である。
2.公共iDCの役割
ITを利用する企業にとって、サーバー等のIT機器を保有・維持するトータルコスト[TCO(Total Cost of Ownership;コンピュータシステムの導入、維持・管理などにかかる費用の総額)]が経営の重荷になってきている。また、バブル期の経営多角化の反省から本業回帰の動きも目立っており、アウトソーシングへの期待も高まっている。
また、インターネット・ビジネスの本格的な普及にともない、利用者に24時間365日にわたる安定したサービスの提供を行なう必要がある。急激なアクセス数の増加に対応したミッションクリティカルな帯域管理やサーバー管理が必須となっている。個人情報保護、企業秘密保護 等の観点からサーバー、PC等に保管されている情報の運用管理が厳しく求められている。
このような時代背景の中で、公共iDCに求められる役割を筆者は次のように考える。
(1)電子自治体推進拠点
平成15年8月に総務省自治行政局が発行した「電子自治体推進指針 」によれば、「電子自治体とは、単に紙で行われていた手続を電子化することではない。行政サービスのあり方、ひいては行政の仕事のあり方そのものの改革を通じて住民の満足度の向上を実現していくためのツールである」とされている。
e-Japanを推進している地方自治体は、電子申請や電子調達等の実現のため、都道府県単位で、電子自治体推進協議会等を設置し、共同あるいは単独で電子自治システムの導入を図っている。 このため、公共iDCは、地方自治体のTCO削減のための共同アウトソーシングセンターとして、また、地方自治体等が行なう住民サービスの向上に資する付加価値の高いサービス提供のインフラとしての役割を担う必要がある。
(2)教育機関、病院等公的機関の情報集積拠点
教育機関では、ITに慣れ親しむ教育からITを活用した教育に今後シフトするものと考えられる。したがって教育コンテンツの充実が重要であり、コンテンツを蓄積しストレス無く提供できる情報倉庫としての役割が重要となる。
また、個人情報保護の高まりに見られるように病院では電子カルテ、デジタルレントゲン映像などを安心して大量に保管できる情報金庫としての役割が公共iDCに求められる。
(3)地場産業の活性化拠点
地場に根差した企業、特に中小IT企業のための活性化拠点としての役割を、公共iDCは果たすことが出来ると考えられる。
公共iDCに収容されるサーバ上で稼動するアプリケーションの開発は、IT企業を抜きにしては考えることが出来ない。また、公共iDCに収容されているNW設備、利用者設備のオペレーションや監視、さらにはセキュリティの維持には、先進的なIT知識が必須であり、このような業務に従事する中小IT企業のスキルアップを通して競争力の向上も期待できる。
(4)生活者を中心とする地域コミュニティ拠点
自治会、同好会等の個人を中心とする地域コミュニティをサポートする地域ポータル、あるいは、地域コミュニティの安全・安心に係る情報の発信基地として公共iDCは期待されている。
(5)他地域の災害時バックアップ拠点
南関東地城直下、東海、東南海、南海等の地震が近い将来生起する可能性が示唆されており、首都圏を始めとする他地域との相互バックアップ機能の提供も公共iDCの大きな役割と考えられる。
3.公共iDCの運営に必要な機能
公共iDCの運営については、次のような機能が必要であると考えられる。
(ア) 建物、電源空調、ラック、セキュリティ等のファシリティ(ハウジング)機能
(イ) LGWAN接続、コネクティビティ等のネットワーク機能
(ウ) アプリを搭載するサーバー、ネットワークとの接続に必要なルーター等のIT機器を
提供するホスティング機能
(エ) IT機器の監視、障害切分・復旧等を担うITマネージメント機能
(オ) 器でしかないiDCにアプリと言う命を吹き込むための機能
(カ) 顧客誘致、営業折衝、契約等の営業機能
以上の全ての機能を1つの事業主体が担うことは困難であり、ここに、公共iDCを核として新しい産業が育まれる可能性が生まれてくる。 地方自治情報センター(LASDEC)が公表している資料 から、公共iDCの運営に必要な機能を提供する主体についてその実態を垣間見ることが出来る(表1参照)。
表1 共同データセンター(DC)のサービス状況
主体 ファシリティ ホスティング ASP&CSP
政府 0 5 5
地方自治体
電子自治体推進協議会
関連団体、PFI等
6 33 64
地場IT企業
-地域IT企業、販社等
35 6 19
全国展開SI企業 6 2 4
ハードベンダー 20 3 10
通信事業者・電力事業者
(NTTグループ)
78
(NTT ; 75)
8
(NTT ; 8)
6
(NTT ; 6)
合計件数 145 57 108
出展 : LASDEC (地方自治情報センター ; 平成18年9月) 公開資料を基に加工
(1)ファシリティ機能
これまで、データセンターを提供する事業者は、所謂システムインテグレータ(SI事業者)が主体であった。
しかし、インターネットの普及を受け、IP電話やIPアプリに活路を見出す必要に迫られたNTTを始めとする通信事業者や電力系通信事業者、ソフトバンクなどの新規参入組みが、iDCという名前の下にデータセンター事業に参入している。
平成18年9月現在、LGWAN-ASP用のファシリティ(データセンター)としては、表1に示すように145件が登録されている。当該データの分析の結果、次のようなことが分った。
(1) 地方自治体や電子自治体推進協議会、関連する財団、組合が自ら運営している事例は6件程度と少ない。
(2) 地場IT企業(地域電算センター、地域独立系SI企業、ベンダー販社、地域金融機関IT子会社など)は35件と多い。
(3) 全国展開SI企業は6件と少ない。
(4) ハードウェア・ベンダーも20件と多い。
(5) 通信事業者(地域ISP事業者、地域CATV事業者を含む)は圧倒的に多く78件であり、内75件はNTTグループが提供主体である。
以上のように、公共iDCのためのファシリティは、地場産業や通信事業者等の第三者から調達することが可能である。
(2)ホスティング機能
ファシリティという大規模な投資を伴う機能は民間ベースで提供されているが、サーバー、ルーター、ファイアウオール等のIT機器調達を伴う中規模の投資については、地方自治体、電子自治体推進協議会等の公的機関が携わるケースが多いようで、ホスティングについては、表1に示すように33件と圧倒的に多い。
(3)アプリ機能
アプリ機能を表すLASDECの分類であるASPアプリケーション及びコンテンツサービス(表1ではASP&CSPと記述)の提供主体は、地方自治体、電子自治体推進協議会等の公的機関が64件と圧倒的に多くなっている。ただし、あくまでも提供主体であって、アプリを設計開発したのは、ハードベンダー、全国展開SI企業、地域IT企業、販社等であると考えられる。
また、地域IT企業、販社等といった地場企業の活躍も見られる。アプリの面では、公共iDCを核として地場産業の育成を狙いとした総務省の意図は成果をあげていると考えられる。
4.公共iDCの課題
公共iDCは、その設置目的から地方自治体、電子自治体推進協議会等の公的機関に必要とするアプリの充実に一応の成果は見ているものの、地場産業の活性化、生活者を中心とする地域コミュニティ等の拠点としての役割は十分果たされているとは言い難い、以下に、今後の公共iDCの課題についてまとめておく。
(1)ソフト面での付加価値の充実
地場産業の活性化のためには、民間企業等の誘致を支援する中小企業向け優遇策の導入 の他、アプリの設計開発の面で地場IT企業との連携が重要である。
また、東京都の平成16度情報システム関係予算に占める基幹系システム経費は約457億円(86%) であるように、地方自治体のシステム経費の大半は基幹系システムに使われている現状を鑑みれば、電子自治体等のフロントオフィス業務は当然のこと、税務・財務を含む基幹系システムも公共iDCに取込むことが重要である。
次に、ブランド力の面では、公共iDCの持つイメージは、信用性や中立性の観点から優れている。このような拠点を利用して、地場の中小IT企業が活動することは、中小IT企業が有し難い側面を補完するという意味で重要である。
(2)ITマネージメント能力の高度化と地場IT企業との連携
従来のメインフレームが主体であったデータセンターとiDCとの相違点は、
(1) センタ内の収容設備はサーバーやルーターが主体であり、IPネットワークに係る高度な技術力が要求されること。
(2) 高密度のサーバ収容がキーポイントであるため、電源・空調の大容量化が要求されること。
(3) インターネットへの太い帯域と、所謂インターネットイクスチェンジ(IX)との強いコネクションを確保しなければならないこと。
(4) 不正侵入、ファイアウオール、ウィルス侵入対策等のセキュリティは必須であること。
などである。
このようなITマネージメント機能はiDCにとって必須の業務であり、情報セキュリティに対する脅威が増大する昨今、マネージメント能力の高度化が必要である。地場IT企業の若手社員を育成しITマネージメント能力の高度化に対応しなければならない。
(3)コネクティビティ選択の柔軟性と相互バックアップ
公共iDCについては、公共であるが故の中立性から特定のキャリアに限定されないコネクティビティ選択の柔軟性が重要である。 iDC相互のリソース連携を可能とする全国的な拡がりも重要となる。LGWAN接続機能を利用することによって、他の公共iDCと連携し、アプリの相互補完、災害時のバックアップ需要等が期待できる。
5.eおおさかiDCの運営管理を振り返って
大阪府が平成15年4月1日に設置され、同年7月1日からサービスを開始したeおおさかiDCは、3年半に近い運用実績を踏まえ、その利用も7割に達するなど、一応の成果をあげている。
その利用をセクター別に見ると、平成17年度末のデータでは民間企業の利用が60%程度に達しており、しかも地場のIT企業が利用しているケースが多いこと、また、自治体・財団等が提供しているサービスには、安全・安心に関わる住民へのメール配信や地域ポータルが含まれていることなど、冒頭述べた公共iDCの役割である、地場産業の活性化拠点、地域コミュニティ拠点としても活用されており、当初の目的を十二分に果たしているものと考えている。
表2 セクター別利用件数
セクター 平成17年度末
国・自治体・財団など 24
独立行政法人・NPO 3
民間企業 40
合計 67

参考文献

1.「平成14年度IT City構想」,財団法人ニューメディア開発協会,2003年3月
2.「営業秘密管理指針」,経済産業省,2003年1月30日
3.「電子自治体推進指針」,総務省自治行政局,2003年8月
4.「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」,厚生労働省,2005年3月
5.「ASPファシリティサービスリスト」,(財)地方自治情報センター,2006年9月
http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/lgwan/index.html
6.「データセンター最新事情」,日経コンピューター,2006年10月30日号
7.「東京都議会総務委員会速記録第三号」,東京都,2004年3月17日

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