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「ASPビジネスの光と影」

ASPIC理事 笠井 正之
新日鉄ソリューションズ株式会社
ITエンジニアリング・サービス事業部 営業第4部
ドキュメント・プロセシング第1グループ グループリーダー
ASPビジネスの拡がりについては、すでに多く語られているが、2000年にドキュメント管理のASP(現:nsxpres.com)の企画に携わり、その後、同ビジネスの立上げを実践してきた経験(2001年サービスイン)から、ASP市場について私見も含めてそのビジネス展望について日頃感じていることを寄稿させていただいた。
【ASP ビジネス成功のポイント】
判りやすい成功のポイントは、2つある。
1つは、基本中の基本である「顧客の獲得」である。あらゆるサービスビジネスは、顧客数※利用料金でビジネスの成否が決定されると言っても過言ではない。サービスベンダーは顧客獲得のために、必死になって、ビジネスモデルやSLAで差別化のポイントを見込客に提示している。端的に言って、いわゆる先行投資の償却+運用費を、共同利用サービスの収入が上回るのがブレークイーブンポイントであり、その後、総収入が総投資を超えたところ(累損解消)からがこのビジネスの醍醐味である。もちろん、定常的に必要となる投資もあり、そんなに簡単に計算はできないが、基本的な考え方は至ってシンプルなビジネスモデルである。
2つめは、サービス範囲の拡大である。これについては後述の通りであるが、サービス範囲を拡大しようとすると、固定費も変動費も増えるケースが多いため、その実行判断には、慎重さと勇気が必要である。
【顧客の獲得】
私の経験を踏まえて、振り返ると、ビジネスを開始した当初は、この1番目の成功ポイントを唯一正しいビジネスの成功要因として仕事に取り組んできた。ブレークイーブンポイント(簡単に言うと単月黒字)を超えることがその始まりであり、それを最大の目標として、とにかく足で稼ぐ営業アプローチを実践した。今にして思えば、当時の営業チームメンバーは本当に大変だったと思う。少し具体的な話をすると、1週間、5日間を午前1コマ、午後2コマの表にして、3×5の全15コマを見込客訪問にあてるように指示をしたのである。


当時の営業チームは、私がリーダーで、担当者が4名の構成であり、その4名が、毎週15コマの訪問アポイントを獲得するべく叱咤激励するのが私の役目で、私は担当者の見込み案件の中で有望なところに同行するというアクションであった。
15コマのうち、訪問が無いときは会社から見込み客リストへの電話コールをすることを義務としていたため、これは、営業経験者には理解いただけると思うが、非常に厳しいアクションプランであった。(すなわち、提案書作成や見積書作成は、客が帰った時間でやれ!という非人道的な指示であり、日中は客先に行っているか、電話をかけているかという状態になる。)


しかし、足を使えばどうにかなるというものでもなく、1年目は厳しい結果に終わった。大赤字である。その対目標達成率は、とてもここでは公表できない。ただ、良いこともあった。その1年目は、市場に対して人海戦術でマーケティング調査を実施したようなもので、いろいろな業界特有のニーズを掌握しつつ、2年目には成功事例を積上げることができたのである。その結果、2年目も終わりに近づいた2003年2月にブレークイーブンポイントを迎えることができたのである。たまたま成功したのは、何よりも、暑い夏も寒い冬も成功事例も無い中で、足を棒にして客先を訪問し続けた営業チーム担当者のモラルの高さが大きく、頭の下がる思いである。


もちろん、当時は啓蒙的な営業アプローチを強いられた反面、先行者利益が大きかったことが成功要因の一つであるので、これからASPビジネスに乗り出すサービスプロバイダは、より戦略的な差別化が必要になると思われる。
【ASP→BSP→BPOへの拡張】
第2のポイントは、サービス範囲の拡大であり、アプリケーションが提供できる範囲を超えた顧客業務の取 り込みであると、現在は確信している。これに気付くまでには、紆余曲折があった。2003年に黒字化した「nsxpres.com」事業であるが、当時、部門では、ビジネスの拡大(=売上の拡大)という命題に対し、ASPサービスそのものの付加価値をいかに高めるかということが盛んに議論されていた。本体のアプリケーション機能を充実させることで、幅広い顧客のニーズに対応するという考え方は、ASPビジネスの模範解答であるが、ドキュメント管理・ドキュメント配信という比較的汎用的なニーズに対応したサービスの場合、そのアプリケーションとしての機能は充分すぎるぐらい実装されており、細かいレベルのバージョンアップを繰り返していたのが現実である。機能の充実で、差別化が図れないとすると、あとは価格競争に陥るだけであり、悩みの種となっていた。


そこで、サービス範囲の拡大策を取ろうと決断したのである。ASP本来の考え方である共通アプリを標準形として、できるだけ多くのユーザーにノンカスタマイズで利用してもらうという方向性とは袂を分かつ決意を したのである。具体的には、顧客の業務ニーズに応じたカスタマイズの積極的な提案活動を実行したのである。標準のASP利用ではなく、顧客固有の情報系業務アプリをASP上にカスタマイズして提供するモデルは、広義のBSP(ビジネスサービスプロバイダ)と捉え、これを推進することに目標を定めたのである。これらは、外部I/Fという関数のライブラリを通して、アプリケーション本体の外側に、顧客毎の情報系システム画面を専用にカスタマイズするという提案になる。アプリケーション本体に手を入れないため、バージョンアップの対応が比較的簡単な環境を維持しつつ、カスタマイズの対応ができるというものである。結果、本来ドキュメント管理のサービスである「nsxpres.com」は、専用の情報系アプリケーションの顔をしたサービスに変貌したのである。面白いことに、ベースがドキュメント管理のアプリケーションなのにも関わらず、顧客の利用方法は、機器の貸し出し管理であったり、食品トレーサビリティを実現したり、施設工事依頼のワークフローシステムに化けたりした。


そして、幅広い情報系アプリケーションに対応できるサービスビジネスモデルとして「NS-BPO サービス」を立ち上げることになった。これは、簡単に言うと、ネットワーク機器・サーバ等のハードウエア・ORACLE等のミドルウエアを共用インフラとして準備しておき、顧客ニーズに応じた情報系アプリケーションはスクラ ッチで構築、それをサービスとして提供するというものである。現在、この「NS-BPOサービス」は、従来のASPの枠を超えた領域をカバーするサービスビジネスとして着実に進展しており、サービスメニューを拡大することに成功している。これからの時代、システム要件以上にセキュリティ要件が求められる傾向にあるため、 顧客における情報系のアプリケーション構築は、顧客内部のインフラ運用負荷の増大から、結果的に順次アウトソース化されていくと思われるが、その内容(アプリケーションの要件)によって、コストメリットの大きいASP・顧客固有要件をカスタマイズできるBSP・柔軟かつ最適なサービスレベルを提供できるBPOのいずれかのサービス形態に変遷していくように思われる。
【ASPビジネスの課題】
拡大基調のサービスビジネス分野であるが、ASP・BSP・BPOと、アウトソーシングの範囲が拡大するにつれ、セキュリティーや運用面での信頼性が大きく問われることになる。


そのため、金額の大小に関わらず、顧客のサービス導入意思決定が経営者判断になることも多い。本当にアウトソーシングしてよいのかどうか、ユーザー部門や情報システム部門で判断できないために、経営層に確認を取るためである。日本市場におけるサービスビジネスの難しさは、そこに集約されると言っても過言ではないと感じている。その課題を解決するには、信頼性・可用性・応答性などのシステム性能の担保・保証とともに、実績や安心感といった要素も重要になってくる。ことサービス(アウトソーシング)ビジネスについては、ニーズがあって安く提供できればビジネスが成立するというわけではない難しさがある。アプリケーションが設置されているIDCのサービスレベルの確認に加え、実際にIDCの見学を要求する顧客の真意は、平たく言えば、安心感を求めているのである。


上記のような考察から、これからのサービスビジネスを検討する際に、重要なファクターになると思われるポイントがある。詳細は控えさせていただきたいが、いずれにしても顧客業務にフォーカスしてサービスビジネスを検討することが最大の鍵であることに間違いないと確信している。

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