ASP はApplication Service Provider(=アプリケーションサービス提供事業者)の略語であり、1990 年代後半から米国を発信源として広まった概念である。しかしその定義に関しては、多様な解釈がなされ、一義的な唯一の定義は存在していない。ASPIC Japanでは、ASPの現在の利用実態に鑑み、その定義を広く次のように捉えることとする。
ASPの定義=『特定及び不特定ユーザーが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル』
利用端末(PCのみとするか否かなど)や提供ビジネスモデル(1対多、多対多などの関係性や利用者と事業者の資本関係など)による排他的な制約は行わない。
またここでいうシステム機能は、ユーザーからのインプット情報に基づき提供するシステム機能により計算処理・保存などのインタラクティブ性を含むことで、ASPビジネスを広く捉えることとしたい。
下図表に、登場当時のASPの特徴と対比する形で、本定義におけるASPのポイントをまとめた。
図表 ASPの定義にもとづく特徴
出典 : ASP白書2005
ASPを予見する概念の登場は1964年にさかのぼる。マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学者であったマーティン・グリーンバーガーが、1964 年の月刊The Atlanticに寄稿した論文の中で紹介した「ユーティリティコンピューティング」は現在のASPに非常に似た概念であるといえる。
日本においても、1970 年代に日本電信電話公社(現在のNTT)が、当時コンピュータが高価で所有できなかった企業に向けて科学技術計算サービス(DEMOS)、販売在庫管理サービス(DRESS)のレンタルサービスを提供した時期があった。しかし、ハードウェアの急速な進歩を受けた価格ダウンにより、企業がシステムを所有し易くなるとシステムのレンタルサービスは次第に衰退していった。1990年までには特定のメーカーによる各社手作りの業務アプリケーションを社内システムに搭載して利用するサービスが一般的となり、1990 年代はダウンサイジングによるクライアント・サーバーシステムが主流となった。
しかしながら、米国では、コンピュータ・システムの標準化・パッケージソフトの普及・インターネットの出現などを背景に、1990 年中頃からユーティリティコンピューティングを指向するサービス事業者が出現してきた。また、特定企業のアプリケーションを預かって運用するアプリケーション・ホスティング事業者も登場してきた。ASPの原型であるといえる。1998 年以降からは、欧米の主要なIT 関連誌にASPという用語が頻繁に掲載され始めた。さらに、1999 年5月には、ASP を普及啓蒙する業界団体であるASPIndustry Consortium が米国で創設されている。
一方日本においても、1999年の11月にはASP・SaaSインダストリ・コンソーシアムが創立メンバー85 社により設立され、1999年頃からメディアの中でASPが頻繁に取り上げられるようになり注目を集めるようになった。国内では、その頃からASP サービスの提供を表明し、ASP 市場に参入するベンダーが数多く出現したが、通信コストが高額で低廉なサービスが提供できないなどの理由から需要が伸びず、多くのASP事業者が市場から撤退して初期のブームは急速に冷えていった。
しかしながら、ADSL高速ネットワークの急速な普及と通信コストの劇的な低下が起こった2002 年頃にはASP事業環境が好転しASP事業者側の収益も改善した結果、ASPに対する関心が再び高まった。また、その民間市場の動きを加速するように、2002 年6月には、総務省が自治体共同アウトソーシング構想を発表した。この施策は複数の自治体が高速回線でネットワークされるデータセンターを共有し、その上に電子自治体のサービスをASPモデルで実現しようとするものである。この国家プロジェクトが情報通信、特にASPに与えるインパクトは非常に大きかった。 1つは、ASP 市場拡大のインパクトである。従来の法人顧客、BtoBから、行政・地方自治体向けのBtoGへの展開、さらに一般消費者向けのBtoCへの期待が高まったことである。もう1つは、新たなビジネスモデル登場のインパクトである。これまでの「不特定ユーザーへのレンタル型ビジネスモデル」から、複数の地方自治体などが仕様を共通化して民間のサービス事業者に運用を委託する「共同利用型アウトソーシングビジネスモデル」の台頭である。このビジネスモデルは、アプリケーションの稼動に不可欠なセキュリティ、データ保管、システム運用管理などのIDCに不可欠なサービスとセットで提供されている。
このように、ASP サービスは2002 年以降、サービス内容、対象及び形態を進化させながら、新たな成長に向けて離陸を始めた。実際、ASPIC Japanの2002 年のASP 事業者実態調査実施時点ではASP 事業を営む事業者の数は600 社程度存在していたが、2004 年のASP事業者実態調査の時点では1,000 社近くにも達している。